新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、「不要不急」の外出自粛を政府が要請したことを受けて、多くの人が集まることの多い行事等の自粛が続いている。
この政府の要請に、文化芸術分野がいち早く応じたことで、文化芸術は感謝されるどころか、むしろ「不要不急」なものの象徴とみなされるようになってしまったのではないか。
一方ドイツでは、モニカ・グリュッタース文化大臣が3月11日に、アーティスト等に対する大規模なサポートの提供を約束するとともに、「現在、アーティストは必要であるだけでなく、絶対に不可欠です」 と声明し[*1]、大きな話題となった[*2]。
治療が必要な人にとって医薬品が必要であるように、また、経済的支援が必要な人にとって現金が必要であることとも同様に、それを精神が求めている状態の人にとって文化芸術は絶対に不可欠なものである。
たとえば、ふとした時に、ある楽曲の旋律の断片が頭をよぎる。そうすると、もうダメだ。その曲がいったい誰の曲で、どのCD(LP)に収録されているのか、探り当てて、全編を聞き直さないと、もはや他のことが手につかなくなってしまう。
また、ある曲を聴いた瞬間に、まるで人生が変わってしまったように感じた瞬間を経験したことは無かったであろうか。これは私自身の経験であるが、それらの音楽は、私の人生と分かちがたく結びついている。文字通りに私の一部なのである。その意味でも、文化芸術は「不要不急」の存在などではけっしてない。
さて、「ステイホーム」が続く中、SNSでは、好きな本を毎日一冊・計7日間Facebook にUPするという「7日間ブックカバーチャレンジ」が流行っている。この試みは、文化を通じてつながりを確認することの大切さを、私たちにあらためて気づかせてくれた。
このような文化のバトンを受け渡すことは、書籍だけでなく、音楽でも同様にチャレンジができるはずである。そして、YouTube等を活用すれば、その場でお薦めの音楽を聴いてもらうこともできるという点で、書籍の紹介よりもSNSに適していると言える。
そこで、「7日間ブックカバーチャレンジ」にならい、今までほとんど聴きかえすことのなかった自分のLPレコードやCDのストックの中から、どちらかというとマイナーな存在で、できるだけ多様な地域・文化の音楽を選んで紹介してみたい。
「不要」ではなく、「繊細な美」を花言葉とする「芙蓉」。そして、「不急」ではなく、「不朽」の音楽。ステイホームの中で、いったん立ち止まって、耳を傾けてみていただきたい。
註
- 1.https://www.bundesregierung.de/breg-de/suche/bundesregierung-beschliesst-soforthilfe-gruetters-rettungsschirm-fuer-den-kulturbereich–1733612
- 2.このグリュッタース文化大臣の声明を、Newsweek日本版が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と“意訳”したため、特に日本では大きな話題となったようだ。https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92928.php