裸のラリーズ(Les Rallizes Dénudés;以下、ラリーズ)の音楽は、ギターアンプから発せられる大音量のノイズを、さらにギターのマイクで拾って増幅させ、爆音として響かせるフィードバック奏法が特徴である。ラリーズ以前には「音楽」とは認識されなかったであろうサイケデリックな音量と音圧には、圧倒的な暴力性とエロスに至る恍惚感が宿っている。
もっとも、ラリーズの存在は、その音楽性よりも、結成時のメンバーに後によど号ハイジャック事件に加わった者がいたという事実で有名かもしれない。
ラリーズの音楽は、1990年代以降の「ジャパニーズ・ノイズ」にも大きな影響を与えたと推測される。日本のノイズ・ミュージックは「ジャバノイズ」とも称される。これは、「日本=Japan」と、「ノイズ(・ミュージック)=Noise」とを掛け合わせた造語である。
「ジャバノイズ」は、国際的にも評価が高く、海外のレコード・レーベルからリリースされている作品も多い。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽を担当したことでお茶の間レベルでの知名度が一気に高まった大友良英も、1980年代にはノイズ・ミュージックを手掛けていた。
私も、ラリーズのライブを1980年前後に法政大学学館ホール等で何度か体験したが、ライブが終わり、外へ出ても耳鳴りは治まらず、街そのものが軋み、唸りをあげているように感じたものである。
「ジャパノイズ」の国際的評価が高い背景として、日本では、元来、ノイズを嗜む伝統があるという点を指摘しておきたい。たとえば、能や歌舞伎で用いられる能管(横笛)は、極めて高音の緊張感のある「ヒシギ音」を発する。これは一種の「ノイズ」である。
また、三味線や琵琶では、弦が棹に触れて独特のビリビリする音が発し、これが他の弦に共鳴する「さわり」という現象が生じる。これもやはり「ノイズ」である。かように、日本人は古くから「ノイズ」を嗜んできたのである。
さて、ラリーズのレパートリーの中で、もっともポピュラー(?)な曲が「夜、暗殺者の夜」である。この曲のベースラインは、世界的にヒットしたスタンダードポップス「愛のシャリオ」(I Will Follow Him)にどこか似ている。今回紹介するのは、ファンの間で評価の高い、1977年のライブ音源から。
裸のラリーズ「夜、暗殺者の夜」
もう一曲は、日本で最初期にノイズ・ミュージックを奏でたバンドであり、キング・オブ・ノイズと称される「非常階段」によるカバー曲。ボーカロイドの初音ミクのコラボレーションのため「初音階段」(笑)を名乗っている。ちなみに、初音ミクは、2012年ロンドン五輪のオープニングセレモニーで歌って欲しいアーティスト、という人気投票のトップになったこともある。
非常階段 starring 初音ミク/初音階段「白い目覚め(White Awakening)」
さて、このようなノイズを背景に美しく舞い踊ることができるのは、やはり金森穣が率いる日本初の公共劇場専属舞踊団、NOISMではないか。緻密で緊張感のあるパフォ―マンスとラリーズの轟音のコラボを一度見てみたい。
これがまさに、芙蓉の花言葉のごとく繊細で、不朽なる音楽。
(参考サイト)
Wikipedia「裸のラリーズ」
<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A3%B8%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA>
「初音ミクがロンドン五輪の開会式で歌う? 米投票サイトで1位に」<https://www.rbbtoday.com/article/2012/01/18/85211.html>