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高齢文化論〈2〉──定年後

太下義之太下義之│Yoshiyuki Oshita1 Jun.2020

サラリーマンにとって、定年退職は辛い労働からの解放であろうか。はたして定年退職後は毎日が日曜日でハッピーなのであろうか。

定年後は毎日が日曜日?

経済小説の大家・城山三郎の『毎日が日曜日』(1976年)では、主人公の先輩が57歳で定年を迎えるにあたり、その後の自分の生活を表題の通り、「毎日が日曜日の身分」と表現している。この先輩は、定年の20年も前から定年後の生活設計を準備してきた人物である。
 しかし実際に定年生活に移行すると、当初は「爽快そのもの」であったものの、やがて、「毎日が日曜日をもてあます気分」となり、その日常は「死んだようになって続くともなく続いている毎日」と表現される。さらに半年を過ぎると、「先の先まで日程表がすべて空白ということは、耐えられないほどにむなしく、また陰気な感じを起させる。道路標識のないのっぺらぼうの道を、鞭を当てられて、あてどもなく歩かされて行く感じなのだ」とまでなってしまうのである。「毎日が日曜日」のようにイメージされる定年後であるが、それは必ずしも幸せな生活ではないと、作者は言いたいかのようだ。

余生は「生前葬」

重松清の『定年ゴジラ』(1998年)は、開発から30年が経過した郊外のニュータウンを舞台に、この古びていく街と、定年後のサラリーマンの生き様が二重写しとなる長編小説である。定年を迎えた主人公たちは、時間を持て余しながらも、自分たちのやるべきことを探していく。主人公より社会人年次が先輩の町内会長は、「余生」という言葉は「余った人生」のことだと言い、「俺たちがいま生きているのは、自分の人生の余った時間なんだよ。そんなの楽しいわけないよな」と主人公に語りかける。
 また、「定年って生前葬だな」というインパクトのある書き出しで始まるのは、内館牧子の小説『終わった人』(2015年)。このベストセラー小説は映画化もされた。主人公はかつて大手銀行の銀行マンであったが、子会社に出向させられ、そのまま63歳で定年を迎える。しかし退職後は、「それにしても、本当にやることがない。(中略)人にとって、何が不幸かと言って、やることがない日々だ」、「どこにも所属しないということが。こんなにも寄る辺ないものとは思わなかった」と主人公は激白することになる。このように書くと、救いが無いように見えてしまうかもしれないが、この小説には還暦を過ぎても「終わらない」人物たちも登場する。すなわち、自分の美容院を経営し始めた妻、親戚のイラストレーター、そしてプロボクシングのレフェリーの資格を獲得した同級生である。要するに、何らかの技術を身につけている人物である。彼(女)らは、技術と体力が確かなうちは仕事を続けることができる。したがって、彼(女)らの人生は「終わらない」のだ。

希望としての「新老人」

一方、前述した城山の『部長の大晩年』(1998年)は、97歳で大往生した俳人・永田耕衣を主人公とした人物評伝である。永田は定年退職後に、自らのことを「会社づとめの荷を下ろし、身も心も軽やかな、生まれたての老人」という意味で「新老人」と表現した。永田の言う「新老人」とはけっしてネガティブな概念ではない。実際、永田は定年後に40年以上も現役の俳人として活躍した。これは会社員として勤務した期間よりも長い。「人生100年時代」と言われる今、永田の晩年の暮らし方は、定年後をいかに生きるのかのモデルケースとなるのではないか。

初出:『改革者 2020年6月号』 政策研究フォーラム

Tags

  • クリエイティブ・エイジング
  • 文化政策

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