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高齢文化論〈6〉──福福連携

太下義之太下義之│Yoshiyuki Oshita10 Oct.2020

演劇情動療法

人間の大脳は、記憶や計算等の知的活動を司る「新皮質」と、感情や感動等の情動を司る「大脳縁辺系」から主に構成されている。

そして、認知症の方でも、笑う、泣く、怒るといった情動は比較的保たれていることがよく知られている。また、感動等の刺激を提供することで認知機能が保たれるという研究結果もある。

一方、日本の多くの介護サービスにおいては、童謡合唱、ぬり絵、ゲームなどの幼稚なレクリエーションが多く、「高齢者の通う幼稚園」と揶揄されることもある。

こうした中、仙台富沢病院では、「演劇情動療法」という名称のユニークな取り組みを行っている。これは、感動や情動を呼び覚ますような小説や戯曲等を題材として、あたかも演劇を観ているかのようにその物語を朗読することによって、参加者の感動を引き起こす、というものである。この演劇情動療法を開始する前と、三か月経過後を比較したところ、認知機能にはあまり変化は無かったが、情動機能は有意に上昇するという結果となったのである。

アール・ブリュットと認知症

演劇が認知症の方の情動を刺激するのであれば、他の芸術分野でも同様の効果が期待できるはずだ。実際に、国立西洋美術館をはじめ全国の美術館で、美術作品を題材とした認知症プログラムが実践されている。これらのプログラムは、複数人のグループで、アート作品を見ながら思ったことや感じたことを、自由に対話するというものである。多様な表現を持つアートは脳に刺激を与えて活性化する。また、作品を見て感じたことを言葉にして参加者同士で共有することは、そうした刺激を増幅する効果があるとされる。こうしたことから、アーツ作品の鑑賞は、認知症の予防や進行抑止の効果があると期待されているのである。

実は筆者は、こうしたアート鑑賞の発展形として、「アール・ブリュット」の作品を題材とした情動活性化プログラムを提唱している。「アール・ブリュット」とは、伝統的な美術の教育・訓練を受けていない人が制作したアート作品のことで、日本では主に精神に障害のある人が制作した作品を指している。社会的な常識にとらわれずに、情動をあるがままに表現した「アール・ブリュット」の作品は、現代社会でさまざまに規制される私たちの感性を直撃する迫力を有している。これらの「アール・ブリュット」の作品は、認知症の方の情動によりストレートに働きかけるのではないか。こうした仮説設定のもと、認知症の予防や初期認知症の進行緩和に活用しようというアイデアである。

これが実現すれば、障害者が認知症の方を支援するという、世界的にも珍しい試みとなる。政策的には、障害者福祉と認知症の福祉を連結する「福福連携」の試みとなることが期待される。

二次補正予算にて採択

実は、この提案が文化庁の「文化芸術活動への緊急総合支援パッケージ(令和2年度2次補正予算)」の「文化芸術収益力強化事業」の一つとして採択されたのである。

「収益力の確保・強化」というと、一般的には、新しいサービス(商品)の開発・提供や新規顧客の開拓と考えがちである。当該事業に関しても、映像配信を中心とした新しいサービス等の開発に関する提案が多数集まっている。 

ただし、アフター・コロナの時代における文化芸術の「収益力の確保・強化」とは、単に新しいサービス(商品)の開発・提供だけではなく、寄付や寄贈、社会包摂等、社会との新しい関係性の構築が肝要になるのではないだろうか。

初出:『改革者 2020年10月号』 政策研究フォーラム

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