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高齢文化論〈1〉──定年

太下義之太下義之│Yoshiyuki Oshita5 May.2020

2月4日、高年齢者雇用安定法等の改正案が閣議決定された。この改正案は、働く意欲がある高齢者がその能力を十分に発揮できるよう、70歳までの就業機会の確保を図ることとし、事業主の努力を求める内容となっている。

“許された”嘱託勤務

かつて、いったん定年を迎えたサラリーマンの再就職はとても困難であった。サラリーマン小説の第一人者・源氏鶏太が、その名もズバリ、『停年退職』を新聞に連載したのは1962年。当時、多くの企業の定年は55歳であった。
 その定年を半年後に控えた主人公が高校の同窓会に出席した際に、同級生は、「一年ほど前から、仕事の方は二の次にして、次の就職口をさがしまわったり、なんとか、一年でも停年を延期してもらいたいと、やたらと重役に頭をペコペコと下げてみたり、自分ながらなさけないものだよ」と語っている。
 また、主人公が勤務する企業の一期上には、「二年間だけ嘱託勤務を許された本田君」がいる。嘱託となるのに「許された」という表現が当時の情勢を如実に表現している。

定年退職後の家計は切実な問題

もっとも、主人公も「当面の問題は何んといっても停年退職後の生計をどうしていくかであった」という状況であり、重役に頭を下げたいと考えているところなのである。
 ところで、厚生年金の支給開始年齢は、1942年の制度発足当初は55歳であったが、累次の改正により65歳に向けて、徐々に引き上げられてきた。『停年退職』の連載当時は、1954年の法改正により、57年から73年までの16年間にかけて4年に1歳ずつ、60歳まで引き上げていく途上であった。
 すなわち、企業を55歳で定年退職した後、年金を支給されない期間が生じ始めたのである。その期間に再就職できるかどうかは、サラリーマンの家計にとって切実な問題であった。このうした社会情勢を背景に、『停年退職』は執筆されたのである。
 そして、この定年退職と年金支給の乖離という問題は、まさに今日的な問題でもある。

磯野波平も定年直前

この『停年退職』の連載とほぼ同時期の1960年代後半、長谷川町子の代表作『サザエさん』と『いじわるばあさん』が二作同時に連載されていた。そして、『サザエさん』の父親・磯野波平と、『いじわるばあさん』の長男・伊知割順一は、どちらも同じ54歳のサラリーマンという設定となっている。
 当時人気のお笑いコンビ・コント55号のテレビ番組を見て大笑いしていた54歳の順一が、いじわるばあさんに「ああ、コント定年か。おまえさんも55だったネ、来年は」と言われて、落ち込む四コマがある。
 ここで「定年」と言われて落ち込んだ順一について今一度考えてみたい。はたして順一の定年後の懸念は経済的な問題だけであったのだろうか。むしろ、生き甲斐こそ重要な問題だったのではないか。
 官邸の成長戦略によると、年金の支給開始年齢が引き上げられていっても、企業による就業期間と接続するかたちとなる。この戦略は、多くの就業者にとって朗報のように響くであろう。
 しかし、真に重要なのは、誇りと生き甲斐を持って取り組むことのできる仕事の有無なのではないか。70歳定年も現実になりつつある今、考えたい課題である。

初出:『改革者 2020年5月号』 政策研究フォーラム

Tags

  • クリエイティブ・エイジング
  • 文化政策

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