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高齢文化論〈5〉──「呆け」と「ボケ」

太下義之太下義之│Yoshiyuki Oshita20 Sep.2020

「認知症」は若い言葉

超高齢社会において「認知症」は深刻な社会問題となっているが、この「認知症」という用語自体は、意外にもまだ若い言葉なのである。

かつては、「痴呆」や「呆け老人」という用語が一般的に使用されていた。しかし、「痴呆」という用語は、侮蔑的な表現である上に、その実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診断等の取り組みの支障となっ ていることから、できるだけ速やかに変更すべきとの問題提起がなされた。これを受けて、二〇〇四年に厚生労働省内に「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」が設置され、「痴呆」に替わる新たな用語を検討した結果、「認知症」が最も適当であるとの結論となった。この結論を受けて、たとえば、「呆け老人をかかえる家族の会」(一九八〇年結成)は、二〇〇六年に「認知症の人と家族の会」に名称を変更している。

一億総ツッコミ時代

『新明解国語辞典』で「ぼけ」を引くと、「ぼけること」のほかに、「(漫才などの話芸で、「突っこみ」役に対して)絶えず受け身の立場にいて、間の抜けた受け答えなどによって客の笑いを誘う側の役」と記載されている。そこで、漫才の「ボケ」について考えてみたい。

さて、「漫才」はもともと「萬歳」と表記され、その歴史は古い。民俗学者の真野俊和によると、太夫と才蔵との二人組の放浪芸人による祝福芸で、平安時代の『新猿楽記』に登場するとのことである。江戸時代になると、全国に展開し、各地に定着する萬歳師が現れる。

社会学者の太田省一によると、二〇世紀初頭から名古屋萬歳が、太夫と才蔵の掛け合いを興行し始め、これが現在の漫才の出発点となったとのことである。その後、昭和初期のエンタツ・アチャコが、ボケとツッコミの役割を明確に分担する「しゃべくり漫才」のスタイルを確立した。時代は下り一九八〇年代の漫才ブーム以降、ビートたけしに代表されるように、本来はボケ役が社会に対するツッコミ役も担うようになるのである。

また、芸人のマキタスポーツは『一億総ツッコミ時代』にて、「現代は『ツッコミ』過多の状態」と指摘し、インターネットの普及によって「声の小さな人」であってもツッコむ権利を取得できるようになったと分析している。たしかに、二〇一九年の「あいちトリエンナーレ」を巡る騒動も、「ツッコミ」過多を実感させられる出来事であった。そして、マキタは「ツッコミ」過多の時代が長く続いてみんなそのことに疲れてきていると指摘したうえで、ボケを取り戻した方が「おもしろくもなるし、生活していて息苦しくもなく、楽になる」と提唱しているのである。

不条理とユーモア

一方、哲学者の千葉雅也は、「ボケ」を「コードに対してズレようとする」ユーモアと定義している。そして、その延長線上に「ナンセンス」という帰結を想定している。

この議論を踏まえて、日本の不条理演劇の第一人者である別役実氏の戯曲について考えてみたい。別役の登場人物たちの噛み合わない会話は、「ナンセンス」と受け取ることもできるし、「コードに対してズレようとする」ユーモアと読み取ることもできる。すなわち、別役の登場人物たちは「ボケ」なのである。普通の漫才であれば、ボケに対してツッコミがズレを修整する役割を担う。しかし、不条理劇においてはツッコミが不在となり、ズレはそのまま放置されることになる。このように日本の不条理演劇を、萬歳から漫才を経た「ボケ」の表現の進化形としてとらえると、また別の相貌が浮かび上がってくる。

初出:『改革者 2020年9月号』 政策研究フォーラム

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